浦山 明俊 公式HP

Urayama Akitoshi

【文章ノウハウVol.5】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「推敲」

小説の文章表現を推敲する実際のやり方

 

前回の【文章ノウハウVol.4】「複合動詞」では、複合動詞を使って、文章を鋭敏にする方法をお伝えしました。おさらいしましょう。

 

<文例1>

道彦は香織に問いただした。(問う+ただす)

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言いよどんだ。(言う+よどむ)

「薬局よ」

また道彦は香織を見つめながら問い詰めた(見る+つめる)(問う+詰める)

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適している薬がないか調べていたの」

と香織は道彦に小声で答えた。

 

このように動詞を複合動詞に書き直し、シーンを限定して描くことができたら、動詞や複合動詞そのものを置き換えてみると、文章には鋭敏さをさらに超えて、感情が表現され、シーンが限定され、詳細さが表現された文章へとブラッシュアップすることができます。

 

さっそく実践してみましょう。

<文例2>

道彦は香織に尋ねた。(問いただしたから変更)

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は口ごもりながら言った。(言いよどんだから変更)

「薬局よ」

また道彦は香織を見つめて、詰め寄った。(問い詰めたから変更)

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適している薬がないか調べていたの」

答える香りの声は、小さく震えていた。(に小声で答えたから変更)

 

しかし会話体のテンポをよくするために、次の書き方もありです。

 

<文例3>

道彦は言った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は答えた。

「薬局よ」

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適していない薬がないか調べていたの」

 

 

まとめ

複合動詞で書き直した表現を、ときには思い切って、動詞単体で表現できないかを推敲する。

シンプルな文章表現には、きちんとバックグランドがなければならない。

浦山明俊

文章ノウハウVol.4】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「複合動詞」

動詞と動詞を組み合わせてみよう

ぶっ飛ばすと言うことがあります。

これは「ぶつ」+「飛ばす」という2つの動詞が組み合わせられてできている言葉です。

蹴っ飛ばすは「蹴る」+「飛ばす」です。

殴り飛ばすは「殴る」+「飛ばす」です。

これを複合動詞と呼びます。

複合動詞を使いこなせるようになると、あなたの文章の表現はするどくなります。

 

複合動詞の使い方

 

さっそく具体的な使い方をみていきましょう。

<文例1> 「信長は、そこで秀吉を見た」

小説の文中に当たり前に描かれる一文です。

 

では次のように書かれていたらどうでしょうか。

<文例2>「信長は、そこで秀吉を見つめた」

 

「見る」+「つめる」の複合動詞です。

 

次の例文はどうでしょうか。

<文例3>「信長は、そこで秀吉を見おろした」

 

「見る」+「おろす」の複合動詞です。

 

もっと行きますよ。

 

「見くだした」

「見惚れた」

「見やった」

「見逃した」

「見返した」

 

どれも「見る」+動詞の複合動詞です。

 

複合動詞は表現をシャープにする

 

私たちは、文章を書くときに動詞単体で文章を結びがちです。

とくに小説などではよく繰り返される言葉として「言う」があります。

 

<文例4>

道彦は香織に言った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言った。

「薬局よ」

また道彦は香織に言った。

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適していない薬がないか調べていたの」

と香織は道彦に言った。

 

会話のシーンを執筆するときに「言った」「言った」と書き続けるとシーンは平坦になり、しつこく感じて読みにくくなります。

 

複合動詞を使うと、シーンは詳細になり、さらには「言う」の内容を限定できます。

 

<文例5>

道彦は香織に言い寄った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言い放った。

「薬局よ」

また道彦は香織に言い寄った。

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に……。そうよ、渡辺さんに適している薬が他にないかを調べていたの」

と香織は道彦に言いよどんだ。

 

どうやら、道彦が怒っているかイライラしていて、香織は引け目を感じているか何かを隠そうとしている様子の描写に変わりました。

 

動詞は行為(状態)を示すわけですが、動詞と動詞を組み合わせた複合動詞にすると、意味がより深く、鋭敏になるのです。

 

複合動詞を使うと、表現をより鋭敏に、よりイメージを限定して描くことができます。

 

まとめ

 

複合動詞は「動詞+動詞」で構成される。

複合動詞で書くと、シーンを限定して描くことができる。

複合動詞で書くと、表現が豊かになる。

「言う」+「動詞」で書き直した表現を「別の動詞」+「動詞」あるいは動詞単体で表現できないかを校正すると、文章全体の表現が豊かになる

 

  浦山明俊

【文章ノウハウVol.3】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「漢語とやまと言葉」

やまと言葉で表現できないかを考える

あなたの文章は、堅苦しくて分かりにくい、なんて言われていませんか。

「的」「性」「化」などの尾語をやまと言葉に変換するだけでも、あなたの文章は格段に読みやすくなります。

 

「だ」「である」と「です」「ます」では変わらない文章の分かりやすさ

 

よく「だ」「である」が硬い文章で、「です」「ます」が柔かい文章を書くコツだと紹介している記事を見かけますが、実際は漢語を使いすぎている文章が、硬い文章になりやすいのです。

柔らかい文章を書くコツは、漢語をなるべくやまと言葉に変換して書くことなのです。

まずは「的」「性」「化」を使わずに書く方法を見ていきましょう。

 

ここではわかりやすい例を挙げましょう。

「的」「性」「化」を封印する

「的」「性」「化」などは漢語的表現の代表です。

 

<文例1> 日常的にうっかり使いがちである。

<文例2> 必要性を感じない。

<文例3> 執筆作業を効率化したい。

 

文例1を書き直してみましょう。

■ 日常的にうっかり使いがちである。

↓↓↓

日常、うっかり使いがちである。

↓↓↓

ふだん、うっかり使いがちである。

 

どうでしょうか。堅苦しい表現が、ソフトで分かりやすい文章になっていませんか。

 

次に文例2を書き直してみます。

 

■ 必要性を感じない。

↓↓↓

必要を感じない。

↓↓↓

必要だと思わない。

 

「性」の表現を書き直しただけで、上から目線みたいな表現が、読者と同じ目線におりてきたように感じませんか。

 

次に例文3を書き直してみます。

 

■ 執筆作業を効率化したい。

↓↓↓

執筆作業の効率をあげたい。

↓↓↓

執筆作業を効率よくしたい。

↓↓↓

書く作業をてきぱきと進めたい

やまと言葉を使いこなせ

 

さらには、試みとして効率という漢語を書き直して、てきぱきという日本語由来のことばに書き直してみました。この日本語由来の言葉を「やまと言葉」と呼びます。

 

では、やまと言葉にこだわって、「作業」という漢語を書き直してみましょう。

 

「書くことをてきぱきと進めたい」

 

さらに私なら、こう書き直します。

 

「てきぱきと書きたい」

 

レトリックの正体

並べてみましょう。

「執筆作業を効率化したい」

「てきぱきと書きたい」

文章表現(レトリック)が異なるだけで、伝えている内容はまったく同じです。

 

国語の成績が良くて、作文を褒められてきた人は、けっこう漢語だらけの文章を書いてしまい、他人からは「読みにくくて、分かりにくい」と敬遠されてしまう原因になったりします。

 

でも「てきぱきと書きたい」なんて表現ではシンプルすぎて、文章表現をしたという感じがしない、というのであれば、漢語表現をわざと残す執筆術があります。

 

漢語とやまと言葉のバランスを取る

 

それは、

 

「書く作業を効率よくしたい」

かもしれませんし、

 

「執筆をストレスなく進めたい」

かもしれませんし、

 

「執筆という作業を効率よく進めたい」

かもしれません。

 

つまりこれが「推敲」作業のひとつの基準なのです。

 

文章表現を自分の好みにと、あれこれいじくって書き直すのは推敲ではないのです。

推敲とは、漢語とやまと言葉のバランスを整えて、自分の表現にする作業なのです。

硬い文章も、柔らかい文章も、こうして推敲してゆくのです。

 

まとめ

 

硬い文章は「です」「ます」に書き直すのではなく、漢語表現をやまと言葉に書き直すのが正解。

推敲は「漢語」と「やまと言葉」のバランスを考慮して、表現を書き直す。

少しでも読みやすい文章にするには「的」「性」「化」の表現を改める。

推敲とは、自分らしい表現に書き直すことではない。

推敲とは漢語とやまと言葉のバランスを整えることである。

 

 浦山明俊

【文章ノウハウVol.2】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「修飾語」

修飾語には法則がある

修飾語をたくさんならべて、一文に書き上げることは多くの人が経験すると思います。

修飾語は、並列で記述されることが多いわけですが、読みやすく、伝わりやすくする法則があります。

それは“修飾語は文字数の多い順に並べる法則”です。

重要度は重要ではない修飾語

 <例文1> 浦山は口ひげを生やした、童顔の、しゃべり出すと止まらない、プロの作家の男である。

これを多くの人は、修飾する内容を意識しないで並列させて書くか、重要度の高い順番に並べて書くかのどちらかで執筆しがちです。

ためしに重要度の高い順番に並べて書いてみましょう。

<例文2> 浦山はプロの作家で、童顔の、しゃべり出すと止まらない、口ひげを生やした男である。

例文2では、プロの作家という重要な修飾語は印象に残りますが、「童顔の」「しゃべり出すと止まらない」「口ひげを生やした」という修飾語は、書き手の印象を並べただけに過ぎません。

つまり情報でありながら、読者の印象には刻まれにくい修飾語となってしまっているのです。

単文にするとかえって読みにくくなる

 私が前回の【文章ノウハウVol.1】でお伝えした。単文で書く執筆術を駆使してみましょぅ。

<例文3>浦山はプロの作家である。浦山は童顔である。浦山はしゃべり出すと止まらない。浦山は口ひげを生やしている。

浦山は(主語)+プロの(修飾語)作家である(述語)。までは読んでもらえたとして、次に続く、浦山は(主語)+童顔である。(述語)に引き続き、浦山は……。浦山は……。

と主語が続く文章は、うるさくて読みにくくなってしまいます。

やはり修飾語を一文の中に挿入した文章にまとめる必要があります。

 

種明かしをしてしまえば、修飾語の並べ方は、重要度で配列するよりも、文字数が多いものを前に置いて書く方が読みやすく、伝わりやすい文章になるのです。

どんな文章にも共通する読みやすさの法則

 <例文4> 浦山はしゃべり出すと止まらない、口ひげを生やした、プロの作家で、童顔の男である。

文字数を数えてみましょう。

浦山は+しゃべり出すと止まらない(12文字)、口ひげを生やした(8文字)プロの作家(5文字)で、童顔の男(4文字)である。

 

単純に文字数で並べ直しただけです。

例文1~3よりも、例文4は、読みやすく、理解しやすい文章になっています。

 

別の文章で確かめてみましょう。

<例文5> スーパーカブは、ホンダ社の、世界一多くの台数が生産されている、昭和33年に誕生したバイクである。

 

<例文6> スーパーカブは、世界一多くの台数が生産されている、昭和33年に誕生した、ホンダ社のバイクである。

 

例文6は“修飾語は文字数の多い順に並べるの法則”で書き直したものです。

 

文章を書くときに、修飾語が並列に筆記されるシーンは少なくありません。

そのときには“修飾語は文字数の多い順に並べるの法則”を意識して、いったん書いた文章であっても、推敲するときに、この法則に従って並べ替えてみてください。

あなたの文章は、読みやすく分かりやすいものになるはずです。

 

まとめ

 

修飾語は、重要度の順番に並べて書かない。

修飾語は、文字数の多いものから順番に並べて書く。

このテクニックを使うと、文章は読みやすく、分かりやすくなる。

 

浦山明俊

『噺家侍』三遊亭円朝始末記その1

『噺家侍』三遊亭円朝始末記その1

その綱の先には、後ろ手にしばられたままのお紀代がつながれていた。
「はぁう。あう、あう」
お紀代は円朝を見つけて、声にならない声を発した。
円朝はお紀代の目を見た。貧しい長屋暮らし。熱病で失った音と言葉。耳が聞こえないばかりに、母親を犠牲にしてしまった幼い日。それでも懸命に生きようと手折りの千代紙人形をこしらえてきたひとりの娘が、哀しい瞳を円朝に向けている。
円朝は、伊助の握る綱を奪おうと、駆け寄った。
ビュン。
浅黄羽織の一撃が、真上から円朝の左腕を狙った。
円朝は、すんでのところで腕を引き、その一撃をかわした。綱は奪えなかった。
「おい、円朝。貴様、刀も持たない丸腰で、どうやって女を助けるというのだ。刀を奪うにしても、ここには俺しかいない。それとも俺の刀を奪うとでもいうつもりで来たか」
円朝の胸元を狙った突きが繰り出された。円朝は斜めに体をかわしたが、歪曲した橋板に足をとられ、わずかに体勢を崩した。
「命、もらった」
浅黄羽織のニヤリと笑う顔と、突きから振りかぶり、上段に構えた刀身が見えた。
タッタッタッタッ……。
「師匠、刀だぁ」
吾妻橋の上を疾走してきたのは、守蔵だった。
朱鞘が満月に照らされて、吾妻橋の上を舞う。
守蔵は、朱鞘の刀剣を円朝めがけて投げたのだった。
体勢を崩していた円朝は、吾妻橋を浅草側に飛び下がると左手を掲げて、朱鞘を受けとった。
とっさに浅黄羽織は飛び下がった。抜き打ちの円朝の胴払いを避けるためだった。
円朝はその隙に立ち上がって正眼にぴたりと構えた。
ゴーン……。夜の四つを知らせる本鐘は、これですべて鳴り追えた。
その刻、四つ。二人が対峙する。
「ふふ、やっと面白くなっだぜ、師匠。なぶり斬りに、あの世へ送ってやるつもりだったが、貴様が刀を手にしたとあっちゃあ、いよいよ命の勝負だぜ」
狂気か鬼気か、喜んだような浅黄羽織の含み笑いだった。

『噺家侍』第18節「その刻四つ」より抜粋

著者回想/陰陽師石田千尋シリーズの担当編集者Mデスクの買い物に付き合いました。ポールスミスのスーツやシャツを購入したMデスクが「時代小説を書きませんか」とロゴ袋を隣の椅子に乗せて、コーヒー店でとたんに打ち合わせとなりました。僕の隣には弟子の佐宮圭が座っています。「浦山さんは江戸落語にめちゃくちゃ詳しいんですよ」この佐宮のひと言で、幕末に実在した落語家の三遊亭円朝を剣豪に仕立てた時代小説を執筆する運びとなりました。Mデスクは、別の出版社に転職してしまいましたが、今でもポールスミスを着ているのでしょうか。

『夢魔の街』陰陽師石田千尋の事件簿その4

『夢魔の街』陰陽師石田千尋の事件簿その4

鈴木亘が敬礼の右手を掲げたまま、筧に尋ねた。
「大佐。爆弾三十発を、どこに仕かけるかご指示をください」
迷彩服を着た集団は二十人ほどいるだろうか。坊主頭の鈴木亘がひときわ背が高い。
残りは、黒い肌をした少年兵たちばかりだ。
柱に隠れて、その光景を眺めていた小島が小声でささやいた。
「あの少年兵たちは、どこから集められたんだろう」
声をひそめて千尋が答えた。
「小山さんの記憶の断片が生み出した幻想……。幻想に招かれた少年兵たち」
そこまで千尋が言ったとき、柱の陰に身を潜めている梓がハッとしたように言った。
「そういえば、私、テレビのニュースで観た気がします。どこかの国の紛争に巻き込まれている子どもの兵隊たちの映像を」
千尋がシッと人差し指を口に当てて梓の言葉を制した。
「幻想と言ってしまえば分かりやすいがな。あの少年兵たちも、今ごろは地球の裏側で眠りについて、夢を観ているはずや」
武田が言った。
「そう言われれば、あそこにいる鈴木亘もいまは拘留中です。取り調べ前で眠っている頃かもしれない」
「そうや、夢魔は小山梓さんの夢のなかへ、いまどこかで眠りについておる者たちを集めた。そしてテログループに仕立てて組織しているんや」
地下共同講の広場に筧の声が響いた。

『夢魔の街』第1章「オヤスミナサイ東京」より抜粋

著者回想/医療ジャーナリストとして睡眠障害(不眠症)を取材しているときに、着想を得た作品です。眠りにおける夢と、人生における夢とは何なんでしょうか。第2章の「黒いルーレット」を執筆するために、僕は深夜の首都高速を疾走しました。第3章「白い闇」は、僕の好きな東京谷中の町を舞台に、千尋と小島が全盲の少女を救うために闘います。すべては夢、すべては現実。そしてすべてが人生そのものだと想いながら書き上げた小説です。