僕のことを食通だと誤解している人がいます。
違います、ただ、美味しいものを食べたいのです。
麻婆豆腐を作るとき、僕はレトルトの中華のモトを使いません。
挽肉にニンニクと黒砂糖を混ぜ込んで寝かし、豆腐はスーパーではなく豆腐屋で買います。

さて調理開始。豆板醤(トウバンジャン)、甜麺醤(テンメンジャン)、豆鼓醤(トウチジャン)をベースに挽肉を炒め、八角を鍋に入れて基礎の味を作り、豆腐を投入し、ここだというタイミングで山椒、鷹の爪、さらにニンニク、火を止める直前に、10分以上は水に浸しておいた片栗粉をほんの少量入れて、火を止めてごま油を鍋のへりから流し入れて完成。

僕が作るとんこつラーメン

カレーライスを作るとき、僕はカレールーを使いません。
数種類のスパイスを組み合わせて、投入するタイミングと火加減に細心の注意を払って、チキンカレーやビーフカレーを煮込みます。その日のうちには食べません。
冷蔵庫で冷やし、取り出して鍋を火にかけ、また冷蔵庫で冷まします。
熱と冷とが織りなす浸透圧で、素材のとくに肉類の細胞膜が破壊されて、味がしみこむのです。

「お兄ちゃんの料理は、科学の実験みたい」

と妹に言われます。
なるほど、化学と生物学が好きだった僕は、そうした知識を料理に応用しているかもしれません。

浦山明俊流シャリアピンステーキ


僕の料理法を紹介すると、ずーっと料理をしているように思うでしょう。
でも、仕込みや煮込みに時間をかけるだけであって、実際にキッチンに立つ時間は15分程度のものです。IHの一口コンロしかありません。夢は広いキッチンを持つことです。

肉や、魚や、野菜や、果物を買うとき、選ぶときから料理は始まっている。

僕はファミレスには行きません。
僕は美味しくない外食店には入りません。
僕はチェーン店系和食店には入りません。

けっこうな金額を取るくせに、美味しくないからです。
僕の手料理の程度では、食べられない料理を食べるために外食します。

僕は弟子たちには、駄食はむさぼるなと指導します。
美味しくない料理を食べ続けると、心がすさみ、身体に不調が蓄積されるからです。

「浦山明俊の弟子になると、高級店に連れて行ってもらえる」

それは誤解です。
高級な料理ではなく、上質な料理を食べてもらうのです。
その経験から、仕事に生活に人生に何らかのヒントを得てもらいたいのです。

浦山明俊流トッポギ

 

京都に弟子を同伴すると『美濃吉』とか『下鴨茶寮』とか、教えたくない四条の隠れ家料理店とかに連れて行くのは本当です。

K君は『美濃吉』で、先付けの皿が運ばれて来たときに、

「あっ、これ。レイアウトの勉強ですか?」

と発言しました。
僕の意図を見抜いたこの弟子は、現在は朝日新聞出版の社員になっています。

『皿に器に盛り付けられるまでに、どれだけの仕事が注ぎ込まれているか、それを見抜き、しかし指摘しないで楽しく食べられる人をグルメと呼ぶのだ』