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Urayama Akitoshi

【文章ノウハウVol.9】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術・練習法その1「800文字作文」

どうしても書けない人にお勧めの練習法その1

誰もが始めやすいのは800文字作文です。

800文字作文はあなどれない

 

書きたい欲求はあるけれど、どうしても書けない。

原稿用紙に向かっても、パソコンに向かっても、スマホ画面を見つめても……書けない。

ならば、書けない自分を、書ける自分に変身させてしまいましょう。

 

誰もが始めやすいのは800文字作文です。

 

お察しの通り800文字で、朝日新聞の一面に掲載されている『天声人語』のようなコラムを書いてみるのです。

 

名文を書こうとして、筆を止める必要はありません。

どうせ誰も読まないのだ、というくらいの気楽さで、しかし本気で書いてみましょう。

 

テーマにも悩む必要はありません。

 

その日に見かけた人物の印象と、どんな人なのかの想像、ときには妄想でもいいのです。

その日に出会った猫のかわいらしさについて800文字を費やすのも悪くありません。

その日の出来事を書いてみるのも、面白いところです。

その日の風景でも構いません。

 

自分のことを書かなければ文章は上達する

 

コツがあります。

 

「私は……」

で書き始めないことです。

 

つまり自分のことは書かない。

これが鉄則です。

 

自分のことは、客観視しにくいのです。

自分のことは、今日でも、明日でも、あさってでも書けます。

 

そして大抵が、自分を書くとつまらない文章に陥ってしまうのです。

 

小学校の作文教育は、自分のことを書くように指導します。

 

これを真に受けて、文筆家や小説家への道は「自分のことを書く」からスタートするのだと誤解している人は少なくありません。

 

読みたくない本の代表は「闘病記」だと思うのは、私だけでしょうか。

 

自分を中心に置いて、書いて構わないのは、売れっ子作家と有名タレントだけです。

 

客観視こそが作家への道

 

800文字作文の効能は、客観の文章を書く稽古になる点です。

 

テーマをおさらいしておきましょう。

 

その日に見かけた人物 → 街ですれ違ったちょっと気になる人への想像。

その日に出会った猫  → どんな模様で、どんな仕草が可愛かったか。

その日の出来事    → パン屋の香りがどうだったか。駅にどんな人たちがいたか。

その日の風景     → 街に見つけた変化。たまたま見上げた月の形。夕景の色、その発見。
思ったこと、感じたこと。

 

800文字作文は、保存しておいて、数ヶ月、ときに数年後に読み返すと、作家としての実力がどう変化して、どう身についていったかを学び直す財産になります。

 

そして、絶対的な注意。
それは800文字以上を書かないことです。

今日は調子が良くて「すらすら書けるぞ」と思っても、800文字を超えてはいけません。
800文字以内に収めて、なおかつ、まとまりのある文章に仕上げることを心がけてください。

 

まとめ

強制的に「書く」ことを日常にとりこむ。

800文字作文は、毎日続けると、書ける自分が見えてくる。

「私は……」で書き始めない。

浦山明俊

【文章ノウハウVol.8】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「5W1H」

5W1Hは、本当に基本なのか

5W1Hは記事を書くときの基本だといわれています。

おさらいをしておくと、いつ(When)、どこで(Where)、だれが(Who)、なにを(What)、なぜ(Why)、どのように(How)という6つの要素から構成されています。

文章を書くときにも5W1Hを大切にしろと学校では教わったはずです。

 

5W1Hの本質とは

 

ある文章タイプにおいては正しく、ある文章タイプにおいては間違いです。

 

まず新聞記事などは5W1Hで書かれています。

 

ビジネス文書も5W1Hを基本に書くべきでしょう。

 

口頭で状況や事態を説明するときにも5W1Hは応用されます。

 

新聞やNHKで使われる5W1H

 

まずは5W1Hの文章を読んでみましょう。

 

<文例1>「昨夜、午前0時27分、東京都立川市にある立川中央病院で、俳優の三橋敏男さんが心不全のため亡くなりました。87歳でした。三橋さんは、白澤明監督の代表作『七人の浪人』に出演し、1979年にはカンヌ映画祭ではグランプリを、1980年にはベネチア国際映画祭で金獅子賞を白澤監督とともに受賞するなど、世界的に活躍をした俳優として知られていました。一昨年に肝臓にガンが見つかってから、入退院を繰り返し、闘病生活を送っていました。葬儀は……」

 

よく見かける記事です。よく読み上げられるニュース原稿です。

そして5W1Hのルールに従っています。

 

5W1Hを崩してしまえ

 

次の文章は、どうでしょうか。

 

<文例2>「訃報です。三橋敏男さん。昨夜、亡くなりました。いまこの訃報が世界中に伝えられています。それほどの大物俳優でした。87歳、闘病中でした。死因は心不全。ですが、2年前には肝臓にガンが見つかっていたんですね。立川中央病院に入院していました。思い出します『七人の浪人』。かっこいい時代劇でした。背が高くて、剣を素早く振り下ろして敵を斬る。白澤明監督の代表作です。世界の三橋、世界の白澤。年上の白澤監督よりも、若くしてこの世を去ってしまいました。カンヌ映画祭でグランプリ。これが1979年。ベネチア国際映画祭で金獅子賞。これが1980年。その後も2010年代まで見事な芝居を見せてくれました。葬儀は密葬だと発表されています」

 

声が聞こえてくるような文章だと思いませんか。

そして筆者の感情も乗って描かれていると思いませんか。

 

あなたが書きたいと思うのは、どちらのタイプの文章でしょうか。

 

じつは<文例2>にも、5W1Hのすべてが述べられているのです。

違うのは、その順番です。

いつ   →  昨夜

どこで  →  立川中央病院で

誰が   →  三橋敏男が

何を   →  人生を

どうした →  終えた(亡くなった)

どのように → ガンの闘病中に、心不全で

 

 

結論から書き始めよう

 

結論から文章は始まっています。、

「三橋敏男さんが亡くなりました」

 

工夫をしたのは、

「訃報です」

と、読者や視聴者を引きつける一文から始めたことです。

 

5W1Hは、「いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように」の順番で書くと、伝達ミスの起こりにくい原稿となります。

 

言い換えれば、初心者でも、5W1Hの順番を守って書けば、誰かに叱られないで済む原稿やビジネス文書や、報告書が書けるということです。

 

5つのWと1つのHの順番を入れ替えても、伝達要件は満たすことができます。

 

結論(だれが/どのように)(なにを/どのように)から入り、読者を引きつけるであろう事項で作文していく。

 

筆者の考える重要事項の順番でも構いませんし、語りたい順番でも構いません。

 

欲をいえば、読者が魅了される順番に配列することです。

 

やんちゃ作家形式は魅力的だ

 

私は、文例1のような文章を「新聞形式の5W1H」と呼び、文例2のような文章を「やんちゃ作家形式の5W1H」と呼んでいます。

 

やんちゃ作家形式を身につけたいのであれば、トレーニング方法があります。

 

簡単です。

 

新聞記事をよく読んで5W1Hをまず理解します。

その5W1Hの文章を、自分の優先順位で、ときに私感を含ませながら、書き直してみるのです。

 

これはフリーライターにとっても、ブロガーにとっても、もちろん作家にとっても、とてもよいトレーニングになります。

 

まとめ

 

5W1Hは、情報伝達の基本となる文章の書き方である

5W1Hは、伝達のミスが起こりにくい

5W1Hは、無味乾燥な印象を与える

5W1Hは、自分なりにアレンジして書くことで、文体を磨くトレーニングになる

浦山明俊

【文章ノウハウVol.7】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「こそあど言葉」

こそあど言葉を書き直すと、読みやすい文章になる

 

そもそも指示代名詞って何だ?

指示代名詞とは「これ」「この」「それ」「その」「あれ」「あの」「どれ」「どの」ことです。

「こそあど言葉」なんて小学校では教えています。

 

<文例1>「信玄は諏訪の稲作の収穫量が低迷していることに頭を悩ましていた。①それはこれからも続くだろうし、②それらのことは国を治める大名としては当然、何らかの手段を講じなければならない課題だった。③それに応えようとしたのが、武田二十四将のひとり、春日虎綱である」

「それ」だけでもこんなにあります。

 

そして国語のテストは、こう問うのです。

問一 ①のそれは、何を指す言葉ですか。全文で答えなさい。
問二 ②のそれらとは何のことですか。全文で答えなさい。
問三 ③のそれとは何ですか。二十文字以内で答えなさい。

答え一 諏訪の稲作の収穫量が低迷していること
答え二 稲作の低迷だけではなく、国を治めるときの課題のすべて
答え三 信玄が頭を悩ましている様々なこと。あるいは稲作の収穫量を増やすこと。

 

作文自慢の人が使いがちな指示代名詞

指示代名詞を安易に使うと、読解力への緊張を強いることになり、読みにくく、そもそもけっこうな集中力を求めなければ、読んでもらえない文章になってしまうのです。

しかし作文が巧いと褒められた経験のある人たちのほとんどが、この指示代名詞を“誇らしげに”使いまくって作文します。

かつての僕もそうでした。いまでは反省しています。

 

<例文1>は、次のように書き直せるでしょう。

<例文2> 「信玄は諏訪の稲作の収穫量が低迷していることに頭を悩ましていた。収穫量の低迷はこれからも続くだろうし、豊作に導くことはもちろん、国を豊かにすることは大名として手腕を振るわなければならない課題であった。信玄の施政への悩みに応えようとしたのが、武田二十四将のひとり、春日虎綱である」

指示代名詞を使って書くのは、楽です。
指示代名詞を読み解いて、理解するのは苦痛です。

プロの文章書きであるならば、読者に苦痛を強いるのは避けるべきです。

原稿を書き終えたらまずはチェック

まず、原稿をひと通り執筆したら、文章の中の指示代名詞を探しましょう。

そして、例文2のように、指示代名詞を、具体的な名詞へと書き直します。

これを実践するだけでも、あなたの文章は格段に読みやすくなります。

 

まとめ

指示代名詞は「こそあど言葉」のことである。

「これ」「それ」「あれ」「どれ」のことである。

指示代名詞を使って作文するのは執筆者にとっては楽である。

指示代名詞の多い文章は、読者にとっては集中力を(だから読み飛ばされるか、読まれないかになる)強いられる。

指示代名詞を具体的な名詞に書き直すのは、読みやすい文章に改めるテクニックである。

浦山明俊

【文章ノウハウVol.6】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「する」

「する」は書かないように心がけよう

文章を書くときに心がけているのは安直に「する」と書かないことです。

「する」と書いてしまうと、意味が正しく伝わらないことがあります。

「する」と書いてしまうと、重たくて難しい文章になってしまうことがあります。

 

簡易だから多用される「する」

例を挙げましょう。

「する」の解決の文例も紹介します。

 

■開催する → 〇〇を開く

■交付する → 〇〇を渡す

■使用する → 〇〇を使う

■停止する → 〇〇を止める

■併設する → 〇〇を並べる

■確認する → 〇〇を確かめる

■出発する → 〇〇へ出かける/〇〇をあとにする

行為を示す名詞+「する」は、よく使われる表現です。

 

つい書いてしまいがちな「する」

それだけ書きやすく、表現しやすいと感じているので、つい「名詞」+すると書いてしまいます。

やまと言葉の動詞が存在するときには、そちらを使いましょう。

 

あっ、ほら。書いてしまいました。

 

■存在する → ある

 

ですよね。

 

やまと言葉の動詞があるときには、そちらを使いましょう。でした。

 

名詞+するは、官庁、役所などで多く見かける表現です。

 

「する」が日本語に根付いた理由

 

これは漢語が公用語だった時代の名残です。

 

江戸時代には、日本各地の各藩で話す言葉が異なっていた(方言)ので、文書の公用語として漢文が使われていました。

 

各藩の話し言葉の違いは、現代でいう方言です。

 

明治維新を迎えて、公用語は標準語にまとめられていくのですが、官庁の文書、役場の文書は、漢文筆記の名残から脱却できずに続いていました。

 

いや現代でも続いているのです。

 

短文で「名詞+する」と表現されるなら、誤解は起こりにくいのですが、「名詞+する」が連綿と連なって表現されると、ときには何を言っているのか分からなくなってしまうのです。

 

並ぶと分かりにくい「する」の文章

 

「先般の国際的紛争における我が国の対応については、閣僚と担当官庁との協議を行ったうえで、審議委員会を設立し、同審議委員会において、協議会を開催した後に、国会で審議するための報告を行う方針である」

 

いくつあるでしょうか。

 

そうです。「名詞+する」の表現です。

 

■協議を+行い(協議をする)→話し合う。

■審議委員会を設立し    → 話し合う場を作る

■協議会を開催した後に   → 話し合ったあとで

■国会で審議する      → 国会で調べ話し合う

■報告を行う        → どうなったかを伝える

 

書き換えれば、このように表現できます。

 

「今回、起きた外国とのもめごとを日本としてはどうするか。総理大臣と役人とで話し合ったうえで、もっと詳しく話し合う委員を選んで集めて、そこで話し合ってから、国会で法律を作るためのアナウンスをするつもりです」

 

お役所表現が現代でも息づいている理由は、

 

どうにも威厳がない。

分かりにくくても威張った表現を残したい。

言い直したり、書き換えたりする文章能力がない。

 

私たちは文章のプロです。なかでも作文のプロです。

イメージを具体的に読者に抱いてもらうためには、安易に「名詞+する」と表現してはいけません。

それでもつい書いてしまう「する」

 

どうしても必要な場面を除き、「名詞+する」の表現は回避するべきです。

 

あっ、ほら。書いてしまいました。

 

■回避する→避ける

ですよね。

 

ただし、「名詞+する」でなければ、どうにも表現できないケースもあります。

 

■電話する

■料理する

■掃除する

 

名詞+サ行変格活用のときには、言い換えをするよりも、「名詞+する」は自然に読んでもらえます。

 

まとめ

 

「名詞」+する をなるべく使わない。

「名詞」+するは漢語由来なので、やまと言葉に書き直すと日本語として伝わりやすくなる。

表現に威厳をもたせたいときには「名詞」+するを使っても構わない。

「名詞」+サ行変格活用のときには、するを使っても読みやすい表現になり得る。

 

浦山明俊

【文章ノウハウVol.5】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「推敲」

小説の文章表現を推敲する実際のやり方

 

前回の【文章ノウハウVol.4】「複合動詞」では、複合動詞を使って、文章を鋭敏にする方法をお伝えしました。おさらいしましょう。

 

<文例1>

道彦は香織に問いただした。(問う+ただす)

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言いよどんだ。(言う+よどむ)

「薬局よ」

また道彦は香織を見つめながら問い詰めた(見る+つめる)(問う+詰める)

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適している薬がないか調べていたの」

と香織は道彦に小声で答えた。

 

このように動詞を複合動詞に書き直し、シーンを限定して描くことができたら、動詞や複合動詞そのものを置き換えてみると、文章には鋭敏さをさらに超えて、感情が表現され、シーンが限定され、詳細さが表現された文章へとブラッシュアップすることができます。

 

さっそく実践してみましょう。

<文例2>

道彦は香織に尋ねた。(問いただしたから変更)

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は口ごもりながら言った。(言いよどんだから変更)

「薬局よ」

また道彦は香織を見つめて、詰め寄った。(問い詰めたから変更)

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適している薬がないか調べていたの」

答える香りの声は、小さく震えていた。(に小声で答えたから変更)

 

しかし会話体のテンポをよくするために、次の書き方もありです。

 

<文例3>

道彦は言った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は答えた。

「薬局よ」

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適していない薬がないか調べていたの」

 

 

まとめ

複合動詞で書き直した表現を、ときには思い切って、動詞単体で表現できないかを推敲する。

シンプルな文章表現には、きちんとバックグランドがなければならない。

浦山明俊

文章ノウハウVol.4】読んだ直後から文章が上達する プロの小説家が伝授する作文術「複合動詞」

動詞と動詞を組み合わせてみよう

ぶっ飛ばすと言うことがあります。

これは「ぶつ」+「飛ばす」という2つの動詞が組み合わせられてできている言葉です。

蹴っ飛ばすは「蹴る」+「飛ばす」です。

殴り飛ばすは「殴る」+「飛ばす」です。

これを複合動詞と呼びます。

複合動詞を使いこなせるようになると、あなたの文章の表現はするどくなります。

 

複合動詞の使い方

 

さっそく具体的な使い方をみていきましょう。

<文例1> 「信長は、そこで秀吉を見た」

小説の文中に当たり前に描かれる一文です。

 

では次のように書かれていたらどうでしょうか。

<文例2>「信長は、そこで秀吉を見つめた」

 

「見る」+「つめる」の複合動詞です。

 

次の例文はどうでしょうか。

<文例3>「信長は、そこで秀吉を見おろした」

 

「見る」+「おろす」の複合動詞です。

 

もっと行きますよ。

 

「見くだした」

「見惚れた」

「見やった」

「見逃した」

「見返した」

 

どれも「見る」+動詞の複合動詞です。

 

複合動詞は表現をシャープにする

 

私たちは、文章を書くときに動詞単体で文章を結びがちです。

とくに小説などではよく繰り返される言葉として「言う」があります。

 

<文例4>

道彦は香織に言った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言った。

「薬局よ」

また道彦は香織に言った。

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に適していない薬がないか調べていたの」

と香織は道彦に言った。

 

会話のシーンを執筆するときに「言った」「言った」と書き続けるとシーンは平坦になり、しつこく感じて読みにくくなります。

 

複合動詞を使うと、シーンは詳細になり、さらには「言う」の内容を限定できます。

 

<文例5>

道彦は香織に言い寄った。

「先週の夜勤のときに君はどこにいたんだ」

香織は道彦に言い放った。

「薬局よ」

また道彦は香織に言い寄った。

「どうして薬局にいたんだ」

「院内処方の薬歴簿に、渡辺さんの症状に……。そうよ、渡辺さんに適している薬が他にないかを調べていたの」

と香織は道彦に言いよどんだ。

 

どうやら、道彦が怒っているかイライラしていて、香織は引け目を感じているか何かを隠そうとしている様子の描写に変わりました。

 

動詞は行為(状態)を示すわけですが、動詞と動詞を組み合わせた複合動詞にすると、意味がより深く、鋭敏になるのです。

 

複合動詞を使うと、表現をより鋭敏に、よりイメージを限定して描くことができます。

 

まとめ

 

複合動詞は「動詞+動詞」で構成される。

複合動詞で書くと、シーンを限定して描くことができる。

複合動詞で書くと、表現が豊かになる。

「言う」+「動詞」で書き直した表現を「別の動詞」+「動詞」あるいは動詞単体で表現できないかを校正すると、文章全体の表現が豊かになる

 

  浦山明俊