『夢魔の街』陰陽師石田千尋の事件簿その4
鈴木亘が敬礼の右手を掲げたまま、筧に尋ねた。
「大佐。爆弾三十発を、どこに仕かけるかご指示をください」
迷彩服を着た集団は二十人ほどいるだろうか。坊主頭の鈴木亘がひときわ背が高い。
残りは、黒い肌をした少年兵たちばかりだ。
柱に隠れて、その光景を眺めていた小島が小声でささやいた。
「あの少年兵たちは、どこから集められたんだろう」
声をひそめて千尋が答えた。
「小山さんの記憶の断片が生み出した幻想……。幻想に招かれた少年兵たち」
そこまで千尋が言ったとき、柱の陰に身を潜めている梓がハッとしたように言った。
「そういえば、私、テレビのニュースで観た気がします。どこかの国の紛争に巻き込まれている子どもの兵隊たちの映像を」
千尋がシッと人差し指を口に当てて梓の言葉を制した。
「幻想と言ってしまえば分かりやすいがな。あの少年兵たちも、今ごろは地球の裏側で眠りについて、夢を観ているはずや」
武田が言った。
「そう言われれば、あそこにいる鈴木亘もいまは拘留中です。取り調べ前で眠っている頃かもしれない」
「そうや、夢魔は小山梓さんの夢のなかへ、いまどこかで眠りについておる者たちを集めた。そしてテログループに仕立てて組織しているんや」
地下共同講の広場に筧の声が響いた。
『夢魔の街』第1章「オヤスミナサイ東京」より抜粋
著者回想/医療ジャーナリストとして睡眠障害(不眠症)を取材しているときに、着想を得た作品です。眠りにおける夢と、人生における夢とは何なんでしょうか。第2章の「黒いルーレット」を執筆するために、僕は深夜の首都高速を疾走しました。第3章「白い闇」は、僕の好きな東京谷中の町を舞台に、千尋と小島が全盲の少女を救うために闘います。すべては夢、すべては現実。そしてすべてが人生そのものだと想いながら書き上げた小説です。